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全面的価格賠償について

共有状態を解消する場面において、自分が全持分を取得したいと考える場合には、まずは協議・和解による解決を目指すことが合理的です。

もっとも、他の共有者が反対していてもなお、共有物分割訴訟においては、共有者のうち1人(または数人)の単独所有とし、他の者には金銭を支払うという「全面的価格賠償」が認められることがあります。

その要件としては、最高裁平成8年10月31日の判例において示された、「当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情」が求められています。

すなわち、

①特定の共有者が取得する相当な理由があり

②適正な買取価格の提示がなされ

③支払い能力がある

ことから、他の共有者にはその持分を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるといえる場合には、一部の共有者が反対していてもなお、全面的価格賠償が認められることとなります。

このページでは、裁判例に基づき、どのような場合にこの条件が満たされたといえるのか、について解説いたします。

全面的価格賠償が認められた事案


東京地裁 平成19年 6月25日

共有状況となっている建物につき、原告が全面的価格賠償を求めた一方で、被告は競売を求めた事案。

裁判所は、対象建物の敷地が原告単独の所有にあること、対象建物についても原告が15/16もの共有持分を有していること、そして、原告が10年以上前から対象建物に居住し、生活の本拠としていること(要件①充足)から、対象建物を原告に取得させるのが相当である、と認定しました

さらに、価格評価についても適正で(要件②充足)、原告の支払能力もあることから(要件③充足)、本件建物を原告の単独所有とし,被告らにはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるということができるとし、全面的価格賠償を認めています。

東京地裁 平成19年 3月20日

原告6名が原告のうち1名(原告A)に持分を取得させる全面的価格賠償を求める一方で、唯一対象物件に居住している被告が「転居先が見つかるまで本件建物に居住し、転居先が見つかり次第、対象物件を任意売却し,その代金を共有者間で分配すべき」として全面的価格賠償に反対した事案。

原告Aには適正な価格評価に対する支払能力があり(要件②・③充足)、原告6名の持分は合計4/5に至る一方で、被告は、転居先が定まらないことを理由に任意売却を拒み、さらに固定資産税など不動産の維持にかかる費用を支払うことなく対象物件を使用していることから(要件①充足:※参照)、対象物件を原告Aに単独で取得させることには合理性があるといえる、としました。

(※被告の主張に応じた場合、転居先が見つからないことを理由として、共有状態が長期間にわたり継続してしまう危険性があるため、被告が反対していてもなお共有状況の早期解決のために全面的価格賠償を認めたものといえます)


全面的価格賠償が認められなかった事案


東京地裁 平成26年 8月27日

原告2名が、それぞれ全面的価格賠償を求めたものの、被告は「特段の事情は認められない」として、全面的価格賠償は認められないと反論した事案。

原告のうち1名は「人生の大半を過ごした我が家である」とし、もう1名は「嫁ぐまで過ごした実家である」として、対象不動産を取得する必要性があると主張したものの、前者は満90歳と高齢で、介護施設に入所していることから一人で対象不動産に戻ることはおよそ考えられず、もう一方についても50年近く前に離れた実家に過ぎない(要件①不充足)、ことを理由として本件土地建物を取得する必要性があるとは言いがたい、として全面的価格賠償を否定しています。

(対象不動産を取得する必要性が希薄であったため、要件①(特定の共有者が取得する相当な理由があり)を満たしていないといえます)

東京地裁 平成27年12月22日

被告が原告2名に対し、それぞれ1100万円を支払うとの条件で全面的価格賠償を求めたものの、対象不動産の時価相当額によれば、原告それぞれの持分の適正価格が1785万円であり、被告が希望する賠償価格では、共有者間の実質的公平を害する恐れがあるため(要件②不充足)、特段の事情の存在は認められない、として全面的価格賠償を否定しています。

(相場価格と提示した代償金額との間の大きな隔たりがあったため、要件②(適正な買取価格の提示がなされ)を満たしていないといえます)



原告被告双方が全面的価格賠償を求めた事案


東京地裁 平成19年 4月26日

原告・被告いずれも、全面的価格賠償により、自身が土地の持分を取得することを求めた事案。

価格評価については適正であり、原告には支払い能力があり、被告にも一抹の不安があるものの、支払能力があるとされた。

その上で、原告と被告のどちらを優先させるのかについて、対象土地が先代の遺産であること、および原告が第三者に売却して換金することを考えているのに対し,被告はその地上に建物を建てて居住したいと考えていることから、被告を優先させることが相当であるとして、第一次的に被告が持分を取得する内容の全面的価格賠償を認めています。

(双方が全面的価格賠償を主張した場合において、売却目的の当事者よりも、居住目的の当事者が優先する、との考えに基づいています)