遺留分減殺請求における価額弁償について

遺留分減殺請求を行う場合、請求者は対象となる財産を選択することはできません。

その一方で、請求された側は、遺留分減殺請求に対し、金銭を支払うことで、相続財産の返還を防ぐことが可能とされています。

民法1041条1項

受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。

さらに、この場合には、遺留分全体ではなく、特定の財産についてのみ価額弁償を行うことも可能とされています。

そのため、遺留分減殺請求を受けた者にとって、特に重要な財産が存在する場合には、その財産についてのみ価額弁償を行うことで、相手方に対してその財産を返還することを防ぐことが可能となっています。

(例えば、相続財産中に自社の株式があり、遺留分減殺請求者に、この株式を与えたくない場合には、株式に対してのみ価額弁償を行うことで、最小限の代償金の支払いをもって遺留分減殺請求者による株式取得を防ぐことができます。)

最高裁判所 平成12年7月11日

受贈者又は受遺者は、民法1041条1項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。

なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。

価額弁償における目的物の算定時期について

価額弁償の算定時期は、現実に賠償がされるときであるとされています(最高裁 昭和51年8月30日)。

そのため、遺留分減殺請求訴訟を行った場合には、事実審の口頭弁論終結時となります。

結果として、相手方に遺留分減殺請求の意思表示を行った時点における目的物の価格が8000万円であったとしても、現実に賠償がされる時点での価格が7000万円であれば、価額弁償の算定は7000万円を基準としてなされることとなります。

価額弁償における遅延損害金の算定について

価額弁償における遅延損害金の起算点は、遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し、「かつ」、受遺者に対し弁償金の支払いを請求した翌日とされています(最高裁 平成20年1月24日)。

そのため、価額弁償において遅延損害金を請求する場合には、単に受遺者(遺留分減殺請求の相手方)が価額弁償の意思を表明したのみでは足りず、遺留分権利者が受遺者に対して弁償金の支払いを請求する必要があることとなります。

最高裁判所 平成20年1月24日

遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には、当該遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当である。

したがって、受遺者は、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした時点で、遺留分権利者に対し、適正な遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うというべきであり、同価額が最終的には裁判所によって事実審口頭弁論終結時を基準として定められることになっても(前掲最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決参照)、同義務の発生時点が事実審口頭弁論終結時となるものではない。

そうすると、民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は、上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し、かつ、受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる。